新見正則・白杉望による下肢静脈瘤のはなしと血管疾患のはなし このサイトについてサイトマップ
       
 

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血管疾患 Q & A

 

Q.1 下肢静脈瘤とはどんな病気ですか
Q.2 先天性静脈瘤とは何ですか?
Q.3 深部静脈血栓症とは何ですか?
Q.4 肺梗塞症とは何ですか?
Q.5 エコノミークラス症候群とは何ですか?
Q.6 下大静脈フィルターとは何ですか?
Q.7 深部静脈弁不全とは何ですか?
Q.8 リンパ浮腫とは何ですか?
Q.9 上大静脈症候群とは何ですか?
Q.10 門脈血栓症とは何ですか?
Q.11 急性下肢動脈閉塞症とは何ですか?
Q.12 下肢慢性閉塞性動脈硬化症とは何ですか?
Q.13 腎動脈狭窄症とは何ですか?
Q.14 頸動脈狭窄とは何ですか?
Q.15 バージャー病とは何ですか?
Q.16 動脈瘤とは何ですか?
Q.17 動静脈瘻とは何ですか?
Q.18 人工透析のためにシャント作成術とは何ですか?
Q.19 血管腫とは何ですか?
Q.20 胸郭出口症候群とは何ですか?
Q.21 小胸筋の圧迫による血管閉塞とは何ですか?
Q.22 レイノー病、レイノー症候群とは何ですか?
Q.23 ベーチット病とは何ですか?
Q.24 血管外傷とは何ですか?
Q.25 急性腸間膜動脈閉塞症とは何ですか?
Q.26 慢性腸間膜動脈閉塞症とは何ですか?
Q.27 膝窩動脈捕捉症候群とは?
Q.28 膝窩動脈外膜嚢腫とは?
Q.29 血行再建術とは何ですか?
Q.30 カテーテル検査とは何ですか?
Q.31 血管内治療方法とは何ですか?
Q.32 糖尿病は血管疾患と関係ありますか?
Q.33 動脈閉塞性疾患に対するくすりはありますか?
Q.34 たばこは血管疾患と関係ありますか?
Q.35 お酒は血管疾患と関係ありますか?
Q.36 インポテンツは血管疾患と関係ありますか?

 

Q.1 下肢静脈瘤とはどんな病気ですか
A.1 あしの皮下の静脈が拡張・蛇行したものです。 詳しくは新見正則のホームページ (www.mniimi.com) を参照してください。
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Q.2 先天性静脈瘤とは何ですか?
A.2

生まれつきある下肢の静脈瘤で、ピンクや茶色のあざ、患肢がやや長いなどの特徴があります。

 

典型的な下肢静脈瘤は子供の頃はなく、成人になってから生じるものです。若い時期に静脈瘤になる方も多いですが、通 常は20歳前後です。ところが、あしの表在静脈が子供の頃から目立つ病気があります。この病気は先天性静脈瘤(別 名ククリッペル・トレノーネイ症候群)と呼ばれています。先天的下肢静脈瘤の他に、先天的なあざ(ピンクや茶色です)と静脈瘤のあるあしがやや長いという特徴を持っています。下肢が健側に較べて患側がやや長いことは本人を含めて家族も気づいていないことが普通 です。ですから、下肢の長さに実際に差があっても、日常生活に支障をきたすことはまれです。また、まれに両下肢に先天性静脈瘤がある患者さんもいます。この場合には、足の長さの差は不明瞭となります。

 

この病気は先天性の静脈瘤ですが、遺伝することはないと言われています。ですから、お子さんにも先天性静脈瘤が生じる可能性は、通 常の出産で先天性静脈瘤の方が生まれる頻度と同じと言うことです。この病気は血管外科医の間では有名な病気で、診断は即日つきます。しかし、適当な診断をされたり、またよくわからない治療を施されている患者さんも多いようです。帝京大学血管外科には、インターネットなどで調べて、年間10人前後の方が診察に見えます。

 

下肢の表在静脈が拡張・蛇行しますので下肢静脈瘤ですが、先天的な下肢静脈瘤の場合は下肢の外側を走る静脈から発生します。後天的な静脈瘤が下肢の内側を走る大伏在静脈や下腿の後面 を走る小伏在静脈から生じますので、まったく別の静脈が原因ということです。この表在静脈は外側辺縁静脈と呼ばれるもので、通 常は生家時以前に消失するものが、消失しないまま残ってしまった結果です。また、静脈の形成異常に含まれますので、深部静脈の形成が不全であったり、深部静脈が全く形成されていないこともあります。ですから、先天性静脈瘤に手術を施行するときには、深部静脈の状態は適切に調べる必要があります。また、希に、動脈と静脈が比較的太い枝でつながっている(動静脈瘻を形成している)場合があり、この場合は病名もクリッペル・ウエーバー症候群と呼ばれます。この病気は動静脈瘻を形成していますので、安易な気持ちで、静脈瘤の摘出術を行うと、あとで述べる動静脈瘻と同じように、出血がコントロールできなくなりひどい目にあうことがあります。

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Q.3 深部静脈血栓症とは何ですか?
A.3

筋肉内の静脈血が固まり、静脈が閉塞する病気です。

 

深部静脈血栓症とは筋肉の中を走っている深部静脈の中の血液が固まり閉塞してしまう病気をいいます。血液が固まる原因は、ウイルヒョーという有名なドイツの病理学者が100年も前に記しています。今でもそれは正しいとされています。ウイルヒョーの3兆として知られているのですが、(1)血液の固まりにくい性質が障害されている。(2)血液が流れている。(3)血液が正常な血管のなかにある。(現代風に正確に言うと、正常な血管内皮の中にある)の三つです。

 

血液が固まらないもう一つの理由は、血液が血管の中にあるからです。これは言葉を換えれば、血管の壁の細胞(血管内皮)により包まれているからです。ですから、動脈硬化症などで血管の内皮がぼろぼろになると、血液は固まりやすくなります。しかし、動脈硬化症が静脈の壁にまで影響を及ぼすことはまれです。

 

最後に、血液が流れていることが、固まらないためには重要です。血液が滞っている状態では血液は固まるのです。夜寝ているときなどは静脈血は滞っていそうですが、われわれは適当に寝返りを打っているので、大丈夫です。しかし、強制的に寝返りが打てない状態、つまり全身麻酔などで身動きがとれないときや、ギブスが広範囲に巻かれているときなどは危険な状態といえます。

 

以上の要因が重なり合って、下肢の深部静脈が血液の固まりで閉塞することが、下肢深部静脈血栓症の原因です。深部静脈は静脈血を心臓に戻す高速道路です。これが遮断されれば、大渋滞が生じます。そして、くるまは側道や一般 道にあふれてしまうのです。この状態が深部静脈血栓症です。つまり、下肢は突然に太くはれ、そして、深部静脈が閉塞した代わりに、表在静脈が拡張し、血液を心臓に必死に返そうとしているのです。

 

診断は、突然の下肢の腫脹が生じた場合は、常に下肢深部静脈血栓症を疑うことです。次に確定診断のために静脈撮影を施行することです。超音波検査でもある程度の診断は可能ですが、範囲を含めた血栓の全体像を知るには下肢静脈撮影にははるかに及びません。

 

治療は、急性発症の場合には、血栓が溶ける可能性が強いので、血栓溶解剤を通 常1週間投与します。まれに、血栓が骨盤内の静脈にのみ限局していれば手術的に摘出し、その後血栓溶解療法を追加することも行います。再発性の血栓や、先天的に抗凝固因子が欠損している方には、ワーファリンと言う血液を固まり難くするクスリを内服して頂いています。このクスリはビタミンKの作用を阻害して働くので、ビタミンKが含まれている食品は食べてはいけません。納豆、ブロッコリーなどで、クロレラにも含まれています。このクスリは人により適正量 が異なっており、コントロールが難しいクスリです。また必要量以上を内服すると、出血傾向が生じます。ですから、帝京大学血管外科では再発性の血栓や、先天的に抗凝固因子が欠損している方に、肺梗塞を繰り返しているかたなどに、ワーファリンの必要な理由と、飲み過ぎた場合の怖さを十分に説明してから、処方しています。

 

急性深部静脈血栓でも、慢性の深部静脈血栓でも、下肢の圧迫治療は必要です。怠ると皮膚の表在静脈が拡張し、二次性の下肢静脈瘤となります。潰瘍なども生じます。ともかく、圧迫治療を励行してください。

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Q.4 肺梗塞とは何ですか?
A.4

四肢に出来た血の固まり(血栓)が肺の動脈に詰まり、命に関わる病態を呈します。

 

急性期の深部静脈血栓症は手術的に摘出することも可能ですし、また血栓を溶かすくすりも有効な場合があります。つまり、血栓が静脈の壁と完全に癒着していないということです。ですから、その血栓が静脈の壁からはがれ、移動することもあるのです。また、はじめから静脈の壁とは癒着していない、ふらふらした血栓(浮遊血栓)も多々見られます。そのような場合は静脈の流れに沿って血栓が中枢に移動します。静脈の終点は心臓の中です。詳しくいうと右房です。つぎに右心室です。しかし、右心房や右心室に血栓があってもなにも症状はおきません。ところが、右心室の次は肺動脈です。この肺動脈に血栓が流れ込み肺動脈を閉塞すると、肺塞栓症という病態を生じます。肺の動脈の細いところに血栓が詰まれば、無症状か、または軽い呼吸困難や胸痛などですみますが、肺動脈の本管や左と右にわかれてすぐの肺動脈を血栓が閉塞すると、突然の呼吸停止や心停止をもたらします。本邦ではあまり馴染みのない病名ですが、欧米では年間にたくさんの方がこの病気で亡くなっています。最近日本でも肺塞栓症の概念が普及し、診断されることも多くなっています。また、次に述べるエコノミー症候群という言葉でこの病気は一般 の方々に浸透しているようです。

 

診断は、まず臨床症状で肺梗塞を疑うことが大切です。胸痛、呼吸困難、突然の意識消失などを来せば、肺梗塞も常に考えると言うことです。肺動脈撮影や、造影剤を用いたCTスキャン、またラジオアイソトープを用いた肺血流シンチグラフィーなどで確定診断がつきます。

 

治療は急性期の深部静脈血栓症と同様に、血栓を薬剤で溶かすか、または機械的に取り除くことです。あしの付け根の静脈から太いチューブをいれ、それを肺動脈まで持っていき、血栓を吸引したり、機械的に破壊する方法などが試みられています。

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Q.5 エコノミークラス症候群とは何ですか?
A.5

飛行機に搭乗中に生じた深部静脈血栓症が原因で、着陸後に肺梗塞を生じることです。

 

肺梗塞の名前や概念を日本中に普及させたものが、エコノミークラス症候群です。エコノミークラスの狭い座席に長時間座っている状態で急性期の深部静脈血栓ができ、それが飛行機が着陸し、座席から立ち上がったときに肺に移動して、肺梗塞を起こすことがこの症候群の由来です。特別 にエコノミークラスに多い訳ではないとの報告もありますが、ともかく長時間の飛行機の搭乗後に起こるものなのです。まず、狭い座席に座りますので、あしを動かすこともなかなか出来ません。またあしは座席の下に置く以外になかなか場所がありません。その上、飛行機の中は乾燥しているために脱水状態となります。トイレは混んでいて、また機会を逃すとなかなかトイレには行きづらいものです。ですから、トイレに簡単にいけないためにあまり水分をとらない方もいます。そして、血液が濃縮して固まりやすくなり、またあしを動かすこともほとんどなく、じっとしているという状態が数時間以上続くと、下肢の静脈に血栓が生じるのです。そして着陸し席を立ち、空港ロビーまで歩くと、血栓が静脈壁から剥がれ、心臓に向かい、その後肺の動脈をふさぎ、肺梗塞を生じます。そして突然に意識を失うというのがエコノミークラス症候群です。エコノミークラス症候群を防止するためには、出来る限り飛行機内をうろうろ動き回る。またあしをマッサージする。水をたくさん飲む。などが対策です。それらが出来ない場合は頻回にあしを動かすのもいいでしょう。また、弾性ストッキングを着用して飛行機に乗ることも非常に効果 があります。

 

しかし、水分といってもアルコールの飲み過ぎは逆効果 です。アルコール類を飲むと水分補給と言う意味よりも、かえっておしっこがたくさん出ますので、脱水状態となります。二日酔いの時などにやけに喉が乾くことをご経験ではありませんか。ですから、日頃アルコールをたしなんでいる量 と較べて、アルコールは控えた方がエコノミークラス症候群の原因の一つである脱水状態にはならないと思います。

 

以上のようにエコノミークラス症候群は原因や予防策を知っていれば決して怖い病気ではありません。どうぞ安心して飛行機に乗ってください。また、下肢静脈瘤がある患者さんに特に深部静脈血栓症や肺梗塞の頻度が高いとは言えません。

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Q.6 下大静脈フィルターとは何ですか?
A.6

下肢の深部静脈血栓症から、肺梗塞になることを防止するために、お腹の太い静脈(下大静脈)に血栓を引っかけるフィルターを入れることです。

 

下肢の深部静脈血栓自体は命を落とす心配のない病気です。ところが、血栓が剥がれ、心臓に向かい、その後肺に入り肺動脈を閉塞すると重篤な病気である肺梗塞を引き起こします。小さな血栓が肺に詰まれば、呼吸が苦しいとか胸が痛いとか、または無症状で終わります。ところが大きな血栓が肺動脈に詰まれば、命にかかわる状態となります。そこで、命に関わるような大きな血栓を肺に行く前に捕まえようという試みが下大静脈フィルターです。このフィルターが考案される前は、再発性の肺梗塞の患者さんでは、お腹を開けて、下大静脈を縛っていました。手術後に両足がむくんだりしますが、命を失うよりは良いだろうとの仮定に基づく手術です。次に考えられたのが、下大静脈フィルターです。フィルターですから、ざるを連想してください。小さな血栓は通 過しますが、大きな血栓はざるに引っかかるのです。ですから、致命的な肺梗塞は生じなくなります。引っかかった大きな血栓は、通 常は体の中での血栓を溶かす力により、次第に小さくなり、その後消失します。フィルターの何割かは、挿入後血栓を次から次に引っかけて、最終的には血栓で下大静脈が閉塞してしますことがあります。これは、以前行われた下大静脈を縛る手術と同じ結果 となる訳で、その後には下肢の深部静脈血栓症を原因とする肺梗塞は生じません。この下大静脈フィルターは以前は首の静脈やそけい部の静脈に大きな切開を加えて挿入していました。その上、フィルター自体が健康保険で認められていませんでした。最近は、後述する血管内治療のひとつとして、そけい部や首、腕の静脈からカテーテルを用いて挿入可能となりました。フィルターも一時的に入れて、回収するものも開発されています。本邦でも肺梗塞症の認知度が、エコノミークラス症候群のために、あきらかに上昇していますので、以前よりも肺梗塞の方の診断が的確に、早期に行われています。薬剤に抵抗性で、再発性の肺梗塞症には、下大静脈フィルターを挿入することが適切と考えます。

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Q.7 深部静脈弁不全とは何ですか?
A.7

下肢の深部静脈の弁が機能せず、静脈のうっ滞が生じている病気です。

 

下肢静脈瘤は表在静脈の弁不全ですが、深部静脈にも弁不全は生じます。その原因は、まず先天的に深部静脈に弁がない方がいます。つぎに、重症の下肢静脈瘤では、表在静脈の弁不全に加え深部静脈にも弁不全が進行します。三つ目は、深部静脈血栓症で。血液が固まりその結果 弁が壊れてしまうのです。その後、血栓が溶けると弁の傷害だけが残ります。以上のような原因で、深部静脈に弁があると、下腿に著明な色素沈着や潰瘍を生じます。治療は静脈瘤と同じように、臥床していることです。それもナンセンスですから、弾性包帯や弾性ストッキングの着用を励行していただきます。下肢静脈瘤のストッキングよりは、強い圧力のものが必要で、弾性包帯もしっかり下腿をホールドできるものが優れています。外来では、アメリカ製のコープラスという粘着包帯を使用しています。手術的に弁を正常部から移植する方法も行われています。また、アメリカでは、カテーテル内に挿入でき、小さな創から血管内治療の方法で留置できる弁の開発も進んでいます。しかし、現時点の本邦では、圧迫療法を根気よくすることが最善の治療です。

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Q.8 リンパ浮腫とは何ですか?
A.8

リンパ液が下肢に溜まって、あしが太くなった病態です。

 

リンパ浮腫は正確に言うと、動脈の病気でも、静脈の病気でもありません。リンパ管の病気なのです。この病気はなかなか真剣に見てくれる医者がいないために、血管外科で治療を行うことが多い疾患です。みなさんが蚊に刺されると、痒い盛り上がった皮膚になりますね。かゆみのためにこれを掻きむしると、透明な液が出てきた経験をお持ちと思います。この液がリンパ液です。リンパ液もリンパ管から血管に流れ込みます。両下肢と左上肢のリンパ管は合流し、左の鎖骨窩静脈に流入します。右の上肢のリンパ管は右の鎖骨窩静脈に流れ込みます。このリンパ管が障害されて、リンパの流れのうっ滞がおこり、下肢や上肢がむくんだ病気をリンパ浮腫といいます。上肢では乳癌の手術によりリンパ節が摘出され、その結果 リンパ管の障害を呈してリンパ浮腫を招くことが多いです。同じように婦人科の腫瘍の手術で、リンパ管の摘出を行うと下肢のリンパ浮腫が生じます。フィラリアという寄生虫がリンパ管内に詰まりリンパ浮腫を生じますが、先進国ではまれな病気です。この病気では、特に下肢に生じた場合、深部静脈血栓症が鑑別 診断になります。静脈撮影をして深部静脈が閉塞していれば、深部静脈血栓症、閉塞していなければリンパ浮腫と診断される訳です。リンパ浮腫の治療は圧迫治療です。リンパ液の溜まりを出来る限り減らしたいのです。そうしないとどんどん下肢は太くなっていきます。皮膚は硬くなり、ばい菌の侵入に弱くなります。一度ばい菌が侵入すると、あっという間に、下肢全体が赤くなり、高熱を発します。早く抗生物質で対処すれば事なきを得ますが、遅れると命に関わる状態も生じます。ですから、リンパ浮腫の治療は、いちにも、ににも、さんにも、ともかく圧迫です。そして、傷や水虫を避けてばい菌が入らないようにします。そして、万が一ばい菌が入ったと思われるときは抗生物質を一刻も早く服用することです。残念ながら、弾性ストッキングの圧迫は一生必要な方がほとんどです。しかし、しっかり対処すれば、日常生活を送るために不自由なことは少なくなるはずです。ともかく、圧迫をしてください。まれに、重症なリンパ浮腫の方に、リンパ管と静脈を吻合する手術が報告されていますが、長期の成績は不明です。

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Q.9 上大静脈症候群とは何ですか?
A.9

上肢と頭の血液が心臓に戻る静脈の本管(上大静脈)が血栓閉塞する病気です。

 

静脈血栓症の9割は下肢に起こりますが、まれに他の場所にも生じます。静脈血栓症が上肢と頭の血液を心臓に戻す上代静脈に生じた病気が、上大静脈症候群です。突然に両上肢と首から頭が大きく腫れます。上肢よりも頭の腫れの方が、患者さんは気になりますので、驚いて来院されたり、近所のかかりつけ医さんから紹介されます。行き場がない血液が心臓に戻る必要がありますので、胸の皮膚の表在静脈が拡張し、目立つようになります。原因は、ホルモン剤などのクスリ、ベーチェット病や膠原病、先天的な抗凝固因子の欠損、まれに腫瘍性病変でも生じます。確定診断は上肢から静脈撮影を行い上大静脈の閉塞を確認します。血栓溶解剤で治療します。血栓が完全に溶けなくても、側副路が結構早い時期に生じるため、顔のむくみなどは比較的早期に改善します。

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Q.10 門脈血栓症とは何ですか?
A.10

胃や腸の血液は肝臓にもどり、それから心臓に帰ります。その肝臓に戻る最終ルートが門脈で、その門脈が閉塞する病気です。

 

これも、静脈血栓症の一部と考えています。門脈は胃、小腸、大腸、脾臓、膵臓などの血液を肝臓に送る最終ルートで、その後肝臓から、下大静脈に入り心臓に流れ込みます。この門脈内の血液が固まってしまうことがあるのです。門脈も静脈のひとつと考えられています。原因は、深部静脈血栓症や上大静脈症候群と同じですが、多くは原因不明です。症状は、血栓のできあがる速度にもよりますが、急激な腹痛と、お腹に水が溜まる(腹水)ことが典型的です。一般 医療従事者には、あまり知られていない病気のため、見逃されることが多いものです。治療は、お腹を開けて、固まった血液を取り出したり、血液のうっ滞で腐りかけている腸を切除したりします。最近では、首の静脈からカテーテルを入れ、肝臓の組織を越えて門脈に至り、機械的に血栓を壊したり、吸引したり、血栓溶解剤を直接病変部に高濃度で流したりできます。

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Q.11 急性下肢動脈閉塞症とは何ですか?
A.11

あしに向かう動脈が突然に閉塞して、十分な血液が供給できなくなる状態です。

 

組織や臓器は、血液で栄養されています。特に酸素が必要なのです。肺で取り込んだ酸素は血液内のヘモグロビンと言う物質と結合して組織や臓器に運ばれます。そして、二酸化炭素は静脈を介して肺に運ばれ呼気として排出されるのです。この酸素や栄養のハイウエイである太い動脈が閉塞するとどうなるでしょう。突然血液が供給されなくなり、組織はまず酸素欠乏に陥ります。栄養は数日供給されても問題ありませんが、酸素の欠乏はすぐさま組織の死を意味します。大きな動脈、つまりハイウエイは遮断されても、細い道は残っていますので、完全に血流がゼロになることは通 常ありまえせん。この抜け道がどれくらいあるかによって、組織がどれくらい維持されるかが決まります。太い動脈の突然の遮断は、それ以下の組織を半殺しにするのです。症状は痛みです。そして、酸素欠乏に神経が最も弱いために、痛みは次第になくなり、神経障害のために運動障害も生じます。発症から6時間以内に手術を行い、血液の流れが再開されれば後遺症がなく治るとされていますが、この6時間という値も、脇道の出来具合で短くも長くもなります。ともかく、診断が着き次第、一刻も早い手術が必要な病気です。

 

動脈を急に塞ぐ原因として、二つに分けて考えることが治療のためにも大切です。ひとつは動脈を防ぐ固まりが上流(通 常は心臓)から流れてきて詰まった場合と、動脈硬化などで動脈壁がでこぼこになり、狭窄し、その部分に血液が固まってしまった場合です。前者を塞栓症、後者を血栓症と呼んでいます。塞栓症では閉塞している動脈には問題がないため、手術は閉塞している固まりを取り除くことで終わります。ところが血栓症では、閉塞した動脈自体に問題があるため、人工血管などを用いたバイパス手術が必要です。塞栓症に比べれば遙かに難しく時間のかかる手術になります。

 

次に、上手く血行が再開されても、まだ予断を許しません。半殺しの状態であった組織、特に筋肉に血流が再開されると、こんどは、半分死にかけていた筋肉から、筋肉内の酵素やカリウム、ミオグロビンなどが血中に逸脱し、それらが心臓の障害や腎臓の障害を含めて、全身の代謝異常を引き起こすのです(阻血再灌流障)。また、半殺しの筋肉は新鮮な血液が多量 に流れ込むと、むくみを生じます。このむくみは想像以上のもので、特にふくらはぎの筋肉は硬い筋膜に囲まれていますので、筋肉の膨張自体が筋肉内の圧力上昇を招き、神経や血管を圧迫する状態を呈します(コンパートメント症候群)。そこで筋肉内の減圧をはかるために、筋膜を縦に長く切開する必要が生じます。おしっこから筋肉内のミオグロビンという物質が多量 にでると、腎不全を生じる可能性が増加しますので、人工透析が必要になることもあります。動脈が急に遮断されても重篤な状態を導きますが、また手術により閉塞が解除されても、また阻血再灌流障と一括して呼ばれる病態を呈することが悩ましいのです。

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Q.12 下肢慢性閉塞性動脈硬化症とは何ですか?
A.12

あしに向かう動脈が除々に閉塞して、十分な血液が供給できなくなる状態です。

 

急性動脈閉塞と同じように動脈が閉塞する病態です。しかし、この場合は徐々に狭窄が進行し、最後に閉塞します。ですから通 常は、脇道が徐々にそしてほどほどにできあがっているのです。ですから、急性動脈閉塞のように6時間以内に手術を行わないと大変だといったことはありません。症状は、脇道(側副路)がどの程度末梢の血液を維持しているかにかかっています。最悪の場合は、あしは腐っています。腐る場合は通 常痛みを伴いますが、糖尿病があると神経障害も併発しているために、端で見ているよりもご本人に重篤感がないことがあります。除々に腐っていくので、多くの部分は乾いています。組織を維持する血流がない状態と言えます。

 

組織が腐る前の状態は、激しい痛みです。夜も眠れないような痛みが続きます。重力でもって少しでも血流を増す方が痛みが楽になるために、仰臥位 では休めず、座位でかつ足を下げて、なんとかうとうとする患者さんがいます。切迫壊死と呼ばれる状態です。組織は何とか生存しているが、神経や組織を健常に維持する血液が得られない状態という意味です。

 

次に軽い状態は、安静時には症状はありません。じっとしていれば神経や筋肉を維持するには十分な血流があると言う状態です。ところが、歩くと痛みが生じます。歩くという動作はより多くの血液を必要としますので、それだけの血流はないのです。安静時に蓄えた血液を使用して何とか歩きますが、安静時の貯金がなくなると一歩も動けなくなります。ところが安静にすると再び同じ距離を歩くことが可能なのです。医学用語で間歇性跛行と言います。腰痛や整形外科の病気(脊椎管狭窄症)などでも間歇性跛行を生じますが、簡単な両者の見極めるかたは、血管性の間歇性跛行では、座って休む必要はありません。ところが腰痛や脊椎管狭窄症では、必ず座って安まなければ、再び歩行することは不可能です。

 

治療法は、急性動脈閉塞とは異なり、薬物療法も有効です。最近のクスリは脇道の血流を増す作用が優れているものがあり、薬物療法でも結構よくなります。ですから、薬物療法が無効の場合に手術となることが多いです。しかし、切迫壊死で痛い痛いと訴えている患者さんは、すぐにもあしを切断してくれと懇願しますので、即座にバイパス術の適応となります。

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Q.13 腎動脈狭窄症とは何ですか?
A.13

腎臓に行く動脈が狭窄し、その結果、高血圧を生じることです。

 

腎臓は上腹部の背側に左右にひとつずつ、合計2個あります。おしっこ(尿)を作る臓器です。尿は無菌で、尿により不要な水分と老廃物を排出しています。腎臓は腎動脈で栄養されているのですが、腎臓には尿を作成する仕事の他に、血圧を維持するセンサーもついているのです。ですから、腎臓の動脈圧が低下すると、血圧を上げるホルモン(レニン)が分泌されます。通常は腎臓の動脈の圧は全身の動脈の圧とほぼ等しいのでそのセンサーは上手く機能しています。ところが、腎臓を栄養する腎動脈に狭窄があると、狭窄部の先は血圧が下がります。そこで、腎臓のセンサーは体全体の血圧が低下したものと判断し、腎臓の動脈圧が正常圧となるように、ホルモンにより命令を送ります。腎臓の動脈圧が正常と言うことは、狭窄部の中枢側、つまり全身の血圧は極めて高い圧になるのです。この腎臓のセンサーは左右にありますので、片方の腎動脈狭窄で腎動脈性の高血圧が生じます。軽い狭窄の場合は、ホルモンを押さえるクスリが効果 的ですが、重度の狭窄では、狭窄部を広げる処置が必要です。以前は、動脈狭窄のある腎臓を摘出したり、お腹を開けて狭窄した血管を広げていましたが、現在では、局所麻酔下にそけい部からカテーテルを狭窄部に勧め、風船を膨らませて狭窄部を拡張させています。風船治療のあとに狭窄する場合には、金属の狭窄防止のメッシュの管(ステント)を挿入することも現在では安全に行われています。

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Q.14 頸動脈狭窄とは何ですか?
A.14

脳に血液を送る動脈の狭窄です。脳卒中や急死の原因となることがあります。

 

脳を栄養する動脈は、左右の内頚動脈と左右の椎骨動脈の4本です。内頚動脈は椎骨動脈に較べて遙かに太く、この狭窄は一過性の意識消失や、半身麻痺を生じます。ですから、治療の適応となります。どの程度の狭窄に治療を行うかがいつも問題となっています。まず、手術は首に斜めに約10センチメートルの切開を加え、内頚動脈を露出し、狭窄部の内膜を摘出します。血管外科医が行えば、98%は問題なく終了する手術です。しかし、空気や動脈内膜の破片、血の固まりなどが、脳に移動すると、一時的なまたは永久的な麻痺を生じることがあり、きわめて慎重を要する手術です。診断は血管撮影でなされますが、最近では聴診器で首に雑音が聞こえる場合に、超音波検査を施行することで、簡単にこの病気を疑うことができます。帝京大学血管外科では断面 積で90%以上の狭窄があれば手術を勧めています。また、意識消失などの発作がある場合は70%狭窄でも手術を勧めています。

 

また、後述する血管内治療が、この頸動脈狭窄には良い適応で、欧米ではすでにたくさんの方が、そけい部からのカテーテル挿入と風船による拡張術で治療されています。現在、手術と血管内治療のどちらが長期成績に優れているかの検討がなされている最中です。

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Q.15 バージャー病とは何ですか?
A.15

原因不明の末梢動脈の閉塞をきたす病気です。

 

ビュルガー病とも呼ばれています。また血栓性閉塞性血管炎とも呼ばれています。20年前は閉塞性動脈硬化症と同じくらいによく見られた病気ですが、現在はその頻度が激減しています。食生活の変化によるものか、激減した原因は不明です。若年の男性で、喫煙者に多く、膝下の血管が詰まる原因不明の難病です。昔は、足の指、足部、足首、膝下と次第に切断部位 が上昇していくなんともいやな病気でした。ところが、ここ10年の薬物療法の進歩により切断となる患者さんも激減しました。禁煙の励行と、薬物療法で以前のように悲惨な結果 をたどる方はほとんどいなくなりました。

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Q.16 動脈瘤とは何ですか?
A.16

動脈が拡張する病態です。圧迫症状、破裂、血栓性閉塞、微小塞栓などの危険があります。

 

動脈瘤とは字のごとく、動脈のこぶです。動脈が膨らむことです。動脈が膨らんだことによっても症状は発現します。特に胸部の動脈瘤では、食道や気管が胸部大動脈のそばを走行していますので、食べたものがつっかえるとか、息苦しいとかの症状がでます。当然大きな瘤が胸の中に存在しますので、違和感もあるでしょう。思いもよらない症状としては、声がかれたり、高い声が出なくなります。これは、声を出す神経のひとつである反回神経と呼ばれるものがあり、左側の反回神経は胸部大動脈を回って、喉のにある声帯という声をだす筋肉に分布しているのです。この反回神経が動脈瘤が大きくなることにより圧迫されて、不全麻痺を起こし高い声が出なくなったり、声がかれたりするのです。

 

動脈は中に血液を流していますので、動脈にはしっかりした厚さの壁があります。拡張すると、丁度、風船が次第に大きくなった状態を想像してください。動脈の壁は次第に薄くなり、最後には破裂をするのです。動脈瘤は徐々に大きくなりますので、周囲の臓器を圧迫しながら拡張していきます。肺や心臓を入れている胸腔に破裂すれば、胸に大量 の血液が溜まります。これは血胸と呼ばれます。また、食道に向かって破裂すると、血液を吐くことになります。これは吐血と呼ばれます。また肺に破裂すると、大量 の血痰がでることになり、喀血と呼ばれます。心臓を入れている袋(心嚢)に破裂すると、心タンポナーデと言う状態になり、心不全を引き起こします。破裂する穴が大きな時は即座に重篤な状態となりますが、通 常われわれが治療を行える患者さんでは、破裂部が針穴ほど細いことが多いです。

 

また大動脈解離という状態が胸部の大動脈瘤ではおこります。むしろ、解離が起こって、胸部大動脈瘤を生じると言った方が適切です。解離とは動脈の壁が真ん中から裂けて、その部分にも血液が流れ(解離腔と呼びます)、解離が進行し、かつ動脈の径も拡大して大動脈瘤となるのです。解離腔が進展すると大動脈の分枝を閉塞することがあります。心臓を栄養している冠動脈が閉塞すれば、心筋梗塞を引き起こし、解離がお腹の動脈にまで進み腎臓を栄養する腎動脈を閉塞すれば腎不全となります。腸を栄養する上腸間膜動脈を閉塞すれば、腹痛を引き起こします。

 

上記は胸部大動脈瘤の症状ですが、腹部大動脈瘤も同じような症状を引き起こします。しかし、腹部の大動脈だけに解離が存在することは希で、腹部大動脈瘤は破裂する前は拍動性の腫瘤や、偶然に他の目的で行った超音波検査やCT検査にて発見されます。破裂してショック状態となり病院にかつぎ込まれ、初めて大動脈瘤の破裂だと診断される患者さんもたくさんいます。

 

心臓から、血液を送り出す管が動脈ですので、それこそ全身の至る所に動脈は存在します。心臓に近いところにはとても太い動脈が存在します。胸部大動脈などは3センチ前後あります。腹部大動脈でも2センチ前後あります。胸やお腹の大動脈瘤が大きくなると、破裂の危険性が増大します。風船のように均一に大きくなった場合は、腹部大動脈瘤で直径が5センチを越えれば、多くの施設で手術を勧めています。かたちが不均一の動脈瘤はもっと小さな大きさでも破裂をする危険が大きいのです。

 

上肢や下肢の動脈では、破裂の頻度は減少し、動脈瘤が血の固まりで閉塞することと、動脈瘤の壁に着いた血の固まりが、末梢の動脈に移動し、そこで動脈閉塞を引き起こす頻度が増加します。足の指の動脈が中枢の動脈瘤の血栓による微小な固まりの移動により閉塞する病態を、微小塞栓症候群と呼んでいます。あしの動脈ではあしの付け根の動脈(浅大腿動脈)と膝の裏を走る動脈(膝窩動脈)に動脈瘤ができる頻度が多いです。頻度は少ないですがこれらの動脈瘤が破裂することもありますし、破裂して初めて動脈瘤と診断されることもあります。

 

また、お腹の臓器を栄養する動脈(腹腔動脈、脾動脈、上腸間膜動脈、腎動脈)などにも動脈瘤は生じますし、骨盤を栄養する内腸骨動脈や、脳に血液をおくる頸動脈にも動脈瘤は生じます。

 

動脈瘤の原因は、動脈硬化症によるものがもっとも多く、感染症や、慢性外傷などでも生じます。手術は、動脈瘤を摘出するか、または、動脈瘤を残して動脈瘤に流入・流出する血管をすべて縛ります。破裂の危険、瘤による末梢への微小血栓の予防が目的です。瘤ができる動脈は縛ると、その末梢に重篤な血流障害を引き起こす動脈がほとんどですので、人工血管や自分の静脈を用いて血行再建を行います。また、最近では後述する血管内治療にて、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤などを含めた動脈瘤が治療可能となりました。治療できる動脈瘤の位 置や、かたち、分枝との関係などで血管内治療に適さない場合もありますが、これからますます期待できる治療法のひとつです。

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Q.17 動静脈瘻とは何ですか?
A.17

動脈と静脈が、直接つながってしまう病態です。

 

動脈と静脈は、それぞれ組織や臓器に血液を送り出し、そして血液を心臓に戻すための血管です。言葉を換えれば、動脈と静脈の間には、必ず組織や臓器が存在します。組織や臓器が間に存在せず、直接に動脈と静脈がつながってしまった病態が動静脈瘻です。このような動静脈瘻は、外傷や事故のあとにも生じます。また、太い針を刺す医療行為、たとえば心臓カテーテル検査などの後にも生じます。この場合、流量 が増大すると、心不全を起こしますので、動脈と静脈の合流部を縛る手術を行います。血管外科医にとっては、難しい手術ではありません。
ところが、先天的に動静脈瘻を形成している患者さんがいます。年齢を増すに従い、動静脈瘻の流量 が増えたり、静脈や動脈が拡張するため不自由な手足になります。この手術は外傷や事故などの動静脈瘻とは異なり極めて大変です。動静脈瘻が一カ所のことはなく、多数に、むしろ無数に動脈と静脈が直接に連絡をしています。動脈の本管を結んでしまうことが簡単ですが、すると末梢の組織は死んでしまいます。バイパス術が末梢におければ問題はないのですが。ですから、多くの先天性動静脈瘻は出来れば手術をしたくないのです。そのため、治療は動静脈瘻が大きく発達しないように動静脈瘻の適切な圧迫です。特製の医療用弾性包帯を作成し、常時着用することがもっとも効果 的です。動静脈瘻の流量が心不全を起こすほど多くなると、カテーテル治療にてコイルを用いて大きな動静脈瘻を閉鎖することを試みます。先天性の動静脈瘻では手術以外のいろいろなことを試みても不成功の時に、最後の手段として、手術的な処置を考慮します。

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Q.18 人工透析のためにシャント作成術とは何ですか?
A.18

人工透析を行うために、人為的に動静脈瘻を作成することです。

 

シャント作成術とは、動静脈瘻を人為的に作成することです。腎不全の患者さんは生命を維持するために人工透析が必要です。人工透析は週に数回、一回あたり数時間を要します。人工透析の器械には一分間あたり200ミリリットルの血液が流れ込む必要があります。それだけの血液を得るには、太い管が必要です。心臓のそばの静脈に太いチューブを挿入してあれば可能ですが、それでは患者さんの負担は大変なものです。そこで、腕の動脈と静脈を外科的につないで、静脈に直接動脈の血液が流れ込むようにするのです。すると、太い針を刺すことも容易で、かつ大量 の血液を人工透析器に送ることが可能になります。針を抜けば、人工物は一切ありませんので、入浴を含めて日常生活が可能です。 動静脈瘻を人為的に作成することは、通常困難な手術ではありません。利き腕ではない方の上腕、特に手首のそばに作成します。週に数回、数時間にわたって太い針が刺された状態となりますので、なるべく患者さんの不利益にならないように配慮するのです。通 常は、比較的簡単な手術ですが、静脈が極端に細かったり、永年の医療行為で腕の表在静脈が廃絶している患者さんもいます。目的は、太い針が容易にさせて、かつ一分間に200ミリリットルの血液を器械に送り、かつ体に戻すルートがあればいいのです。体のどこの部分に作成してもいいのですが、最初のシャントが一番大切です。最初によいシャントを作れば長持ちします。最初にシャントでトラブルを生じると、新しいシャントを次々に作成し、ついにはシャントに使える血管がなくなってしまいます。また、最初は良好なシャントも時間とともに、不具合を生じます。そのときは、簡単にあきらめて新しいシャントを作るのではなく、出来る限りシャントを修復して使用することがベストです。修復方法は、手術的に修復したり、現在は風船で拡張したりすることも可能です。どうしても適切な表在静脈がないときは、人工血管でシャントを作成する事も可能ですから、心配しないでください。しかし、人工血管は感染に弱いので、シャントの管理や使用に注意が必要です。

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Q.19 血管腫とは何ですか?
A.19

血管の良性腫瘍です。

 

血管腫とは血管の良性腫瘍で、悪性腫瘍のように転移したりはしません。血管腫の多くは、腫瘍内血管に動静脈瘻がありますので、治療の考え方は、どの程度動静脈瘻があるかによります。運良く、動静脈瘻がなければ、手術的に摘出することも通 常簡単です。通常と述べたのは、血管腫は身体のどこにでも出来ますので、出来る場所によっても大きさによっても処置の簡単さがことなります。上肢や下肢の血管腫で、動静脈瘻を合併しているのでは、動静脈瘻の範囲を的確に把握して、手術を始めないと、とんでもないことになります。血流の豊富な血管が多数あるため、腫瘍を中途半端に残して終了することが困難な場合があるのです。始めた以上、すべて取りきらないと終了出来なくなるわけです。血管腫の範囲を的確に知るには、現在ではMRI検査がもっとも確実・正確で、また患者さんの負担も少なくものです。四肢の血管腫で動静脈瘻を合併しているものでは、特製の医療用弾性ストッキングを常時着用してもらい大きくなるのを防止することが最も適切な治療の場合が多いです。

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Q.20 胸郭出口症候群とは何ですか?
A.20

上肢の付け根が解剖学的関係で狭くなり、動脈、静脈、神経を圧迫する病態です。

 

聞き慣れない名前と思います。上肢の動脈や静脈、また神経が傷害される病気です。上肢に必要な血液を供給している動脈は一本で、腕の付け根のところでは鎖骨下動脈と呼ばれています。腕の付け根と言っても、結構首に近い部分ですが。また、上肢は血液を心臓にもどす静脈も上腕(肘から上のことです)から中枢では一本になり、腕の付け根では鎖骨下動脈と併走して、鎖骨下静脈と呼ばれています。また、上肢の運動や知覚神経は腕神経叢というまとまりとなって、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈の直ぐそばを走行しています。つまり、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈、腕神経叢は一緒に同じような場所を走行しているのです。このまとまって走っている神経、動脈、静脈が人間の解剖学的な理由から、圧迫されることによっておこる病気が胸郭出口症候群です。圧迫するものは、第1肋骨と鎖骨で、まれによけいな骨(頚肋とよばれます)が存在することもあります。この肋骨と鎖骨で形成される解剖学的な狭い空間は、姿勢によりもっと狭くなります。電車の吊革につかまって、胸をはり、腕を後方に移動させた状態です。圧迫による症状は、神経、動脈、静脈のどれが圧迫されるかによります。神経が圧迫されれば、腕や手がしびれたりします。とくに、上記の姿勢をとったときに増強します。また、動脈が圧迫されると、永年の圧迫は鎖骨下動脈の狭窄や閉塞を導きます。また、狭窄した動脈の末梢には、動脈瘤が出来ることがありますので、鎖骨下動脈瘤が形成されることもあります。すると瘤内の血栓が末梢に移動し、手に微小塞栓症候群が起こることもあります。鎖骨下静脈の狭窄・閉塞も生じます。狭窄部や閉塞部の末梢の静脈は血栓性閉塞をしますので、上肢の深部静脈血栓症を初発症状のこともあります。治療は、解剖学的に狭い部位 を広げることが第1で、第1肋骨や余分な骨を切除することを行います。また、動脈が既に閉塞していれば、まれに血行再建術も行われます。軽症の胸郭出口症候群は比較的良くある病気ですが、医療従事者の認知度は低く見逃されているケースが多いです。

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Q.21 小胸筋の圧迫による血管閉塞とは何ですか?
A.21

野球のピッチャーに起こる上肢の動脈閉塞です。

 

胸郭出口症候群と似ていますが、小胸筋という胸板と肩胛骨を結んでいる筋肉が発達して、その下を走っている鎖骨下動脈を閉塞する病気です。通 常の運動では、閉塞するまでひどくなりませんが、プロ野球のビッチャーに時々起こります。原因である小胸筋を切断すればいいのですが、筋肉の切断は野球生命にも関わりますので、小胸筋の圧迫から逃れるようなルートで大伏在静脈などを用いて動脈のバイパス手術を施行します。多くのピッチャーが現役復帰可能です。

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Q.22 レイノー病、レイノー症候群とは何ですか?
A.22 手や足の動脈が寒冷暴露により、過度に収縮する病態です。

 

レイノー現象とは手足末梢の小動脈が寒冷刺激や精神的緊張を誘引として、一過性に攣縮することによって生じる皮膚の色調の変化を言い、通 常は蒼白、チアノーゼ、紅潮の3色に変化します。レイノー現象の多くは、膠原病、血管炎、血液疾患、動脈硬化症、薬剤、神経疾患、末梢塞栓症などを原因として生じます。基礎疾患が明らかなものは2次性レイノー症候群と呼ばれ、基礎疾患が不明のものは、レイノー病と呼ばれています。レイノー現象は健常人にもみられるとの報告もありますので稀なものでありません。レイノー症候群患者の70〜90%は女性に生じます。レイノー症候群の 最も頻度の高い基礎疾患は膠原病で、その中でも強皮症の頻度が極めて高いようです。閉塞性動脈硬化症やバージャー病のような慢性動脈閉塞性疾患でもレイノー症候群は生じます。稀に胸郭出口症候群でもレイノー症候群が生じます。 職業に起因するものは振動工具(チェーンソウなどです)によるものやキーボード操作に起因するものがあります。

 

なぜ、皮膚の色が、白から紫、赤に変わるかと言うと、まず寒冷暴露により、手指の動脈が収縮し、寒冷暴露が続いているかぎり、動脈血の流入停止により手指の蒼白と感覚の低下を招きます。患者さんが温暖な環境に移ると、10分から30分して、動脈収縮が徐々に解除され、動脈血のわづかながらの流入が生じ、十分に酸素化されない静脈血が鬱滞してチアノーゼを生じますので紫色の手指となります。続いて、反応性の充血が起こって紅潮するため、赤色を呈します。

 

治療には生活指導が最も大切です。指の寒冷暴露を避け、炊事洗濯時等は手袋を着用するなどの努力が必要です。また発作の回避や回復には、患部のみの保温よりも、全身の保温のほうが有効です。また、たばこは血管収縮作用を増強するために控えさせます。多くの場合、生活指導を実践すれば指の切断に至ることは殆どないことを理解していただき、精神的なフォローを行います。内服薬は血管拡張剤を中心に、基礎疾患に応じて処方されます。
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Q.23 ベーチット病とは何ですか?
A.23 原因不明の炎症で、神経、血管、消化管が侵されます。血管外科的には静脈の閉塞や動脈瘤を生じます。

 

原因不明の炎症性疾患で、神経、血管、消化管が侵されます。初発症状が血管にのみ生じることがあり、後からベーチェット病であったと診断されることもあります。血管のベーチェット病は血管の炎症性疾患のために、動静脈をともに侵し、拡張性変化と閉塞性変化を生じます。静脈系では、主に閉塞性病変が主体で上下肢の静脈から上・下大静脈、肝静脈などの閉塞が生じます。また拡張性変化に伴う静脈の瘤状変化も稀ながら報告されています。動脈系では拡張性変化である動脈瘤と閉塞性変化である動脈閉塞はほぼ同じ頻度で報告されています。

 

診察時より血管ベーチェトを疑って治療を進めれば、比較的合併症を防止できますが、血管ベーチェトとは気付かずに通 常の血行再建を施行した場合は、血管の危弱性のため吻合部に動脈瘤を形成する危険は極めて高いのです。血管撮影時の穿刺部に仮性動脈瘤(血管壁で被われていない血液の溜まりやこぶです)を生じる頻度も高く、大腿動脈に強い炎症性変化が疑われる時は、血管撮影を断念し、経静脈性の血管撮影やMRIアンギオなどにて代用すべきです。動脈瘤の破裂や、動脈閉塞による四肢の切迫壊死などで外科的治療をどうしても行わなければならない場合は、炎症部より離れた健常と思われる動脈を吻合部として選ぶことが大切です。

 

鑑別診断としては、高安動脈炎とエーラス・ダンロス症候群があります。高安動脈炎は若い女性の大動脈およびその分枝に閉塞性、ときに拡張性病変を生じる原因不明の血管炎です。わが国に多く、大動脈炎症候群、脈なし病などとも呼ばれています。頚動脈狭窄によるめまい・視力低下、鎖骨下動脈狭窄による脈の欠如・上肢の冷感、大動脈腎動脈狭窄による高血圧・心不全などが症状です。内科的治療はステロイド剤を中心にして抗炎症剤が投与されています。外科的治療は血管ベーチェット病と同様で、炎症部より離れた動脈を吻合部として選ぶことです。エーラス・ダンロス症候群は先天性の結合織を侵す病気で血管では拡張性変化や自然破裂がおこります。全身の血管の危弱性のために手術は極めて困難ですが、進行性に増大する動脈瘤や破裂例では手術を行わざるを得なません。
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Q.24 血管外傷とは何ですか?
A.24 外傷により動静脈が障害されます。多くは血管外科的処置を要します。

 

外傷で直接的に、または間接的に動脈や静脈が障害されるます。出血が止まらない場合と、動脈が閉塞して末梢の組織を維持できない場合に緊急手術が行われます。外傷は、千差万別 で、医者の経験により患者さんの命や臓器、四肢が救われるかどうかが決まります。外傷に伴う血管の手術では、手術部が無菌か、それとも外傷により汚れているかが大切です。これは、無菌であれば人工血管の使用が可能ですが、汚れていればばい菌に弱い人工血管ではなく自家静脈を使用することが原則だからです。希に慢性的な鈍的外傷で動脈瘤が生じることがあります。有名なものは松葉杖による脇の下の動脈瘤です。
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Q.25 急性腸間膜動脈閉塞症とは何ですか?
A.25 腸管を栄養する動脈が急に閉塞する病態です。緊急処置を要します。

 

既に下肢の急性動脈閉塞症について述べました。あしに行く動脈の替わりに、腸管を栄養する動脈が急に遮断される病態が急性腸間膜動脈閉塞症です。あしの急性閉塞症は他の病気が少ないために見逃されることはあまりありません。ところが、急性腸間膜動脈閉塞症の初期症状は、突然の腹痛です。突然の下肢痛を呈する疾患は他には少ないのですが、腹痛を生じる疾患は多数あります。ですから、他の検査に時間をとられたり、点滴や抗生物質の投与などを行い経過を観察しているうちに、病態がどんどん進行するのです。病態とは、腸が時間とともに腐っていくことです。腹痛に続いて、腸の粘膜が虚血により脱落しますので、便に血液が混じることがあります。そして、腸が腐り始め、まず腸内の細菌が血液内に入り込みます。敗血症という病態です。腸はむくみお腹に水(腹水)が溜まります。そして、腸に穴があきます。栄養を吸収する大切な腸は小腸と呼ばれますが、小腸のすべては上腸間膜動脈という腹部大動脈の枝により栄養されています。この上腸間膜動脈の本管から閉塞すると、全小腸が腐るのです。運良く、末梢でつまればその動脈が栄養している腸管だけを摘出すればよいので救命は比較的容易です。上腸間膜動脈が詰まるパターンもあしの動脈の急性閉塞と同じように二つに分類されます。閉塞する原因となるものが上流より移動して正常な上腸間膜動脈に詰まる塞栓症と、上腸間膜動脈自体が動脈硬化症などで壁の異常や狭窄を呈しており、その場所に血液の固まりが生じる血栓症です。急性上腸間膜動脈閉塞症の手術は、生き残る可能性のある小腸を出来る限り温存することです。ですから、早期診断と早期手術が必要です。塞栓症の場合は上腸間膜動脈自体に異常はありませんので、上腸間膜動脈内の掃除で終わりますが、血栓症では動脈自体に異常があるため、通 常はバイパス手術または動脈を広げる処置が必要です。 早期診断には、超音波検査やCT検査なども有効ですが、最も確実な診断は上腸間膜動脈の撮影検査です。最近では、発症早期であれば、上腸間膜動脈撮影に引き続いて、カテーテルから血栓溶解剤の注入やバルーンによる拡張などを行い、緊急手術無しで救命できる場合もあります。ともかく、救命には、確定診断のつかない急激な腹痛の患者さんには至急血管撮影を行うことが肝要です。
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Q.26 慢性腸間膜動脈閉塞症とは何ですか?
A.26 腸を栄養する血管が徐々に閉塞する病態で、体重減少や食欲不振を招きます。

 

慢性腸間膜動脈閉塞症は、上腸間膜動脈の閉塞がゆっくり起こる病態です。ですから、脇道がすでに十分できあがっているために、急性腸管間膜動脈閉塞症のように、腸が腐ることはありません。むしろ、腸が動くと痛みを感じる。つまり食事をすると痛いので、食欲がなく、体重が次第に減少するといった症状を呈します。確定診断は上腸間膜動脈撮影検査で、多くは血行再建術を必要とします。
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Q.27 膝窩動脈捕捉症候群とは何ですか?
A.27 膝の後ろの動脈(膝窩動脈)の解剖学的走行異常で、血管が狭窄・閉塞する病気です。

 

あしを栄養する動脈は、お臍の位置で、腹部大動脈から左右の腸骨動脈が分かれ、その動脈はあしの付け根(そけい部)の浅いところを走り、太ももの内側を走行します。そして、後方に回り込み、膝の裏では、丁度膝の真下を走ります。その後膝下で3本の動脈(前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈)に分かれて、ふくらはぎから下を栄養しています。ふくらはぎの筋肉は内側と外側に分かれて太ももの骨(大腿骨)に付いているのですが、その外側と内側の筋肉の間を、膝窩動脈は走っているのです。ですから、膝の後ろの真裏になるわけです。内側と外側の間を走り抜けるのが正常の走行なのですが、異常な筋肉が存在したり、また内側の筋肉の内側や、外側の筋肉の外側を先天的異常で膝窩動脈が走行する場合があります。すると、成長期に筋肉の量 が増大した場合や、運動をして筋肉が発達した場合などに、膝窩動脈が筋肉により圧迫されて狭窄や閉塞を生じることがあります。これが膝窩動脈捕捉症候群の原因です。動脈に異常が起きていない段階では、異常な筋肉を削り取れば終わりますが、動脈内膜に異常が及んでいる場合や、走行があまりにもおかしな場合は血行再建術を行う必要があります。希な病気ですが、知っていないと診断に苦慮します。
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Q.28 膝窩動脈外膜嚢腫とは何ですか?
A.28 膝窩動脈の外膜に水が溜まり、血管内空を圧迫する病気です。水を抜けば治ります。

 

膝窩動脈捕捉症候群と同じような病態を生じます。原因は動脈の外膜に水が溜まった嚢胞が出来てしまう病気です。膝窩動脈の狭窄や閉塞を招きます。診断は超音波検査が簡便で確実です。治療は、超音波検査を行いながら、水を含んだ嚢腫に針を刺し水を抜いてしまえば終わりです。また、水が溜まり再発しますが、その度に水を抜けば済むことです。あまり頻回の場合は手術的に嚢腫部分を摘出することも考慮しますが、ほとんど行いません。
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Q.29 血行再建術とは何ですか?
A.29 血液の流れるルートを作り上げる手術です。

 

人工血管が開発されていないときは、閉塞性の動脈病変に対しては血管内を掃除して、厚い内膜を剥離していました。動脈は外側から、外膜・中膜・内膜と3層で構成されています。動脈硬化症などは中膜・内膜の肥厚でおこるので、この中膜と内膜を上手に摘出し、外膜だけとして再び縫い戻す手術が行われていました。血栓内膜除去術と呼ばれ、現在でも範囲が狭い閉塞などの場合には行われれことがあります。しかし、長い距離の血行再建では、全長にわたり血栓内膜除去術を行うことは労力と時間を要し、また術後の再閉塞率も高いのです。また、大伏在静脈などを用いて血行再建術が行われていました。静脈内に動脈血が流れて大丈夫との意見があったようですが、全く問題ありません。現在では、優れた人工血管がありますので、太い血管の再建術には基本的に人工血管が使用されています。太い血管とは6ミリメートル以上の血管です。医療技術が進歩した現在でも、細い人工血管の成績は不良です。手術自体は、顕微鏡を使用すれば、内径1ミリメートルの血管をつなぎ合わせることも可能です。ところが、細い血管に人工血管を縫いつけると、人工血管が血の固まり(血栓)で閉塞してしまいます。そのため、現在でも細い動脈の血行再建術には、自分の静脈(自家静脈)が好んで使用されます。自家静脈の第1候補は、大伏在静脈です。ですから、無闇に大伏在静脈の抜去術は行いません。しかし、下肢静脈瘤で1センチメートル近くに拡張した大伏在静脈は代用血管としては、全く使用できません。われわれの施設の方針は代用血管として使用できないような大伏在静脈のみを抜去しています。

 

人工血管の開発により、太い動脈の手術が可能となりました。お腹や胸の大動脈の手術です。胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤では、人工血管なくして手術は不可能です。人工血管にも欠点があります。それは、感染に弱いことです。感染するとばい菌が人工血管に住み着き、抗生物質を大量 投与しても、すべてのばい菌を殺すことが出来ないのです。ですから、多くの場合、感染した人工血管は早晩摘出せざるをえません。どの施設でも人工血管の手術では、ばい菌の侵入がないよう十分な注意が払われて行われています。外傷などで、ばい菌の感染が必発の場合は、人工血管の使用は慎むべきで、自家静脈を用いて血行再建術が施行されます。
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Q.30 カテーテル検査とは何ですか?
A.30 あしの付け根の動脈から細い管を血管内に入れて、動脈を映し出す検査です。

 

エックス線検査をご存じですか。“息を吸って、はい止めて”と言われて撮影する肺と心臓のエックス線写 真。また、骨折などが疑われたときにとる写真がエックス線写真です。通常の写 真では、骨は綺麗に写ります。また、空気がそばにあるとコントラストがでるため、肺も綺麗に写 ります。心臓の大きさも肺が周囲にあるために、はっきりとわかります。ところが、心臓の内部は全くわかりません。おなじように血管内部もわかりませんし、血管の走行も通 常のエックス線写真では観察不可能です。そこで、エックス線に良く写る液体(造影剤)を注入してエックス線を撮影すると血液の流れ、血管の内側の状態が綺麗に描出できます。しかし、造影剤を濃い濃度で注入する必要があるために、カテーテルと呼ばれる細いチューブを、撮影目的の血管の直ぐそばに入れて、造影剤を注入し撮影するととても綺麗な像が得られます。カテーテルを入れる部位 は、あしの付け根(そけい部)を走る大腿動脈か、肘の前面を走る肘動脈が用いられます。最近はカテーテルがどんどん細くなり、入院の必要なく検査をすることも可能ですが、日本の入院費用は安く、やはり日帰りは心配なこともあり、翌日退院が安心でしょうか。一番行われているカテーテル検査は心臓を栄養する動脈である冠動脈の撮影です。心臓を栄養する動脈の狭窄は狭心症や心筋梗塞を招きますので、確実な診断が必要だからです。また、カテーテル検査の優れている点は、撮影するという診断目的以外に、風船を入れて狭窄部を広げることもできます。心臓の冠動脈でも、また四肢をふくめてその他の動脈でも風船による拡張治療が可能です。次項でお話します。
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Q.31 血管内治療方法とは何ですか?
A.31 カテーテル検査や治療を応用拡大したもので、血管の内側から処置を行います。

 

最近の医療技術の医療産業の進歩により、血管内からさまざまな処置が出来るようになりました。まずそけい部の動脈(大腿動脈)などを切開するか、針を刺して太いチューブを入れ、カテーテルや処置をするための道具が簡単に出し入れできるルートを造ります。そのルートから、遠隔にある病変部の治療を行うのです。たとえば、狭窄部に対しては、風船付きのカテーテルを挿入し、拡張することは広く行われています。また、風船治療では、直ぐに再閉塞するような場合は、ステントといって、メッシュの円筒をカテーテルから挿入し、再閉塞しないようにすることも出来るのです。最近では、閉塞性の病変にカテーテル治療が行われています。カテーテル内に挿入されたナイフにて内膜を除去したり、また削って吸引したりして、ワイヤーを閉塞部を越えて通 るようにします。その後、風船にて拡張し、場合により再閉塞を防ぐために、メッシュの筒を入れます。すべての道具は数ミリメートル以下の直径です。カテーテルの内径はさらに細いわけですが、その内空を等して、先端で広がるような道具が数多く開発されています。とくに短い範囲の狭窄には風船治療が行われます。 また、血栓をスプレーのようなジェット流で器械的に壊す道具もあります。血栓に対しては、カテーテルを進めて血栓溶解剤を注入する方法も効果 的です。出来る限り手術ではなく、カテーテルによる処置で血管が広がれば、患者さんは痛くもなく、早期に退院が可能ですので、患者さんにとっては福音です。

 

動脈瘤も最近では、血管内治療が可能となりました。カテーテル内を等して動脈瘤の始めと、終わりを越えて人工血管が内挿できるようになったのです。一部のお腹や胸の動脈瘤もこの方法で治療が可能です。創はそけい部に数センチから十センチのものがあるだけです。ですからお腹や胸を大きく切開する必要がないわけです。極端な場合は(欧米などでは)その日のうちに退院も可能です。昔のことを思うと夢のような治療ですが、血管内から治療できる動脈瘤に限りがあること、日本ではまだ保険適応が認められていないこと、長期成績が不明なことなど、今後解決すべきこともたくさんあります。
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Q.32 糖尿病は血管疾患と関係ありますか?
A.32 大いに関係あります。

 

糖尿病は字の通り、糖がおしっこに出てしまう病気です。腎臓は尿を作る臓器ですが、腎臓には糖を尿に出さない働きもあります。ところが、血液中の糖の濃度があまりにも高いと、腎臓の糖を尿に出さない機能の限界を超えて、「糖尿病」となるのです。ですから、血液のなかに糖が多すぎることが病態です。糖はエネルギー源として大切なもののひとつですが、糖を上手にエネルギーに代えるにはインシュリンというホルモンが必要です。このホルモンの絶対的不足、または相対的不足が糖尿病の本態です。絶対的不足とは、インシュリンを分泌する膵臓内の細胞が壊れて不足することです。相対的不足とは、インシュリンの量 以上に、体が大きい、つまり肥満であるということです。どちらにしても糖尿病はひとつも良いことがない病気です。神経がやられ、動脈がやられ、目がやられます、腎臓がやられます。糖尿病を治すことは相対的インシュリン不足の場合にはやせれば良いわけですが、絶対的不足では不可能です。しかし、インシュリンを使用すれば糖を上手にからだの中で使用できる要になり、糖尿病がコントロールされていると表現されます。ですから、糖尿病と真剣におつきあいすれば、あまり心配のない病気です。

 

糖尿病を放置すると動脈硬化症を招き、腎不全を招き、そして神経障害を招きます。これは血管外科医にとって大問題で糖尿病性の血管閉塞は末梢の動脈が閉塞しますので、なかなか治りません。その上、神経障害が加わりご本人に痛みが少ないが全くないため、本人の重症感がありません。ですから、血液が行かずに足の指の潰瘍を招いても、そのまま放置され、切断に至ることも少なくないのです。ともかく、糖尿病と上手につき合ってください。また、糖尿病がうまくコントロールされていなければ、いくら血管拡張剤の投与や、血行再建術を施行しても、結局は失敗します。
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Q.33 動脈閉塞性疾患に対するくすりはありますか?
A.33 最近の10年で相当有効なくすりが発売されました。

 

ここ10年間で血管拡張剤はすばらしく進歩しました。口から飲むクスリもまた静脈内に投与する薬も極めて効力の高いものが発売されました。ですから、動脈が閉塞している病気の方で、保存的治療をする余裕がある場合は、まずこれらのクスリを十分に試して、そしてなおかつ手術を必要な場合にのみ、血行再建術が行われるようになったのです。特に欧米ではこの傾向が強く、動脈閉塞で一定距離しか歩けない患者さん(間歇性跛行の患者さん)に対しては、ほとんど手術が行われなくなりました。私の施設でも、あしが腐りかけていたり、まはた激しい安静時の痛みを伴う場合を除いて、まず入院にてクスリの投与を行う保存的治療を優先しています。これらのくすりの効果 はおもに血管拡張作用です。つまり、閉塞している動脈に対して直接治療するものではなく、閉塞の結果 生じた動脈の脇道を太く、かつ数多くするためのクスリです。入院治療では血管拡張剤の投与は2週間、糖尿病を合併していれば4週間の投与が保険で認められています。ですから、まず入院し、2または4週間の点滴治療を行うことが多くなりました。多くの患者さんが、手術をする必要がなくなり、また切断の危険から逃れることが出来るようになりました。
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Q.34 たばこは血管疾患と関係ありますか?
A.34 大いに関係があります。動脈疾患では必ず禁煙してください。

 

たばこは動脈硬化症の促進因子です。しかし、すでにできあがっている動脈硬化症が禁煙で治ることはありません。問題なのは、たばこによる動脈の収縮作用です。喫煙していると、内服や点滴にて投与する血管拡張剤が効かなくなるのです。それ以上に血管が収縮するため、動脈の脇道が出来にくい状態を作ってしまいます。ともかく、禁煙をしてください。減煙はあまり効果 がありません。一本でも喫煙しないようにすることが大切です。どの閉塞性病変も禁煙が大切ですが、そのなかでも特にバージャー病はタバコが病気の原因または極めて強い促進因子と考えられていますので、禁煙を含めて、間接喫煙(他の人が吸ったタバコの煙が間接的に肺に入ることです)も避けるように指導しています。日本も大分欧米に近づきましたので、禁煙環境が増えていることは、動脈閉塞症の患者さんには朗報です。
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Q.35 お酒は血管疾患と関係ありますか?
A.35 喫煙ほど関係ありません。

 

閉塞性の動脈疾患では、必ず禁煙をしていただきますが、お酒に関してはほどほどの量 であれば問題ありません。飲み過ぎは困りますが、適量であれば結構です。糖尿病などがあると、カロリー制限が生じますので、飲酒量 にも注意が必要でしょう。
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Q.36 インポテンツは血管疾患と関係ありますか?
A.36 骨盤を栄養する3本の動脈がすべて閉塞すると血管性インポテンツとなりますが、手術で治ります。

 

神経性インポテンツのクスリが発売されました。全世界で爆発的に売れています。インポテンツには神経性のもの以外に血管性のインポテンツがあります。勃起させるには相当の血流が必要なのですが、骨盤を栄養する動脈に閉塞があると、インポテンツを生じます。骨盤を栄養する動脈は、下腸間膜動脈と左右の内腸骨動脈です。この3本のどれかひとつが開存していれば、血管性のインポテンツは生じないとされています。3本とも閉塞している場合には手術にて血行再建を行いますが、血管性のインポテンツだけを症状として手術が行われることは極めて希です。なぜなら、下腸間膜動脈と左右の内腸骨動脈の3本とも閉塞している方は、まずあしを栄養する動脈も閉塞していますので、あしに血流を増やす血行再建術が平行して施行されるからです。むしろ、ほとんどの患者さんや医療関係者が、インポテンツは血管の病気の結果 と思っていませんので、あしの病気を治したら、インポテンツも治ったとすごく喜ばれるケースの方が遙かに多いです。
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