動脈が拡張する病態です。圧迫症状、破裂、血栓性閉塞、微小塞栓などの危険があります。
動脈瘤とは字のごとく、動脈のこぶです。動脈が膨らむことです。動脈が膨らんだことによっても症状は発現します。特に胸部の動脈瘤では、食道や気管が胸部大動脈のそばを走行していますので、食べたものがつっかえるとか、息苦しいとかの症状がでます。当然大きな瘤が胸の中に存在しますので、違和感もあるでしょう。思いもよらない症状としては、声がかれたり、高い声が出なくなります。これは、声を出す神経のひとつである反回神経と呼ばれるものがあり、左側の反回神経は胸部大動脈を回って、喉のにある声帯という声をだす筋肉に分布しているのです。この反回神経が動脈瘤が大きくなることにより圧迫されて、不全麻痺を起こし高い声が出なくなったり、声がかれたりするのです。
動脈は中に血液を流していますので、動脈にはしっかりした厚さの壁があります。拡張すると、丁度、風船が次第に大きくなった状態を想像してください。動脈の壁は次第に薄くなり、最後には破裂をするのです。動脈瘤は徐々に大きくなりますので、周囲の臓器を圧迫しながら拡張していきます。肺や心臓を入れている胸腔に破裂すれば、胸に大量 の血液が溜まります。これは血胸と呼ばれます。また、食道に向かって破裂すると、血液を吐くことになります。これは吐血と呼ばれます。また肺に破裂すると、大量 の血痰がでることになり、喀血と呼ばれます。心臓を入れている袋(心嚢)に破裂すると、心タンポナーデと言う状態になり、心不全を引き起こします。破裂する穴が大きな時は即座に重篤な状態となりますが、通 常われわれが治療を行える患者さんでは、破裂部が針穴ほど細いことが多いです。
また大動脈解離という状態が胸部の大動脈瘤ではおこります。むしろ、解離が起こって、胸部大動脈瘤を生じると言った方が適切です。解離とは動脈の壁が真ん中から裂けて、その部分にも血液が流れ(解離腔と呼びます)、解離が進行し、かつ動脈の径も拡大して大動脈瘤となるのです。解離腔が進展すると大動脈の分枝を閉塞することがあります。心臓を栄養している冠動脈が閉塞すれば、心筋梗塞を引き起こし、解離がお腹の動脈にまで進み腎臓を栄養する腎動脈を閉塞すれば腎不全となります。腸を栄養する上腸間膜動脈を閉塞すれば、腹痛を引き起こします。
上記は胸部大動脈瘤の症状ですが、腹部大動脈瘤も同じような症状を引き起こします。しかし、腹部の大動脈だけに解離が存在することは希で、腹部大動脈瘤は破裂する前は拍動性の腫瘤や、偶然に他の目的で行った超音波検査やCT検査にて発見されます。破裂してショック状態となり病院にかつぎ込まれ、初めて大動脈瘤の破裂だと診断される患者さんもたくさんいます。
心臓から、血液を送り出す管が動脈ですので、それこそ全身の至る所に動脈は存在します。心臓に近いところにはとても太い動脈が存在します。胸部大動脈などは3センチ前後あります。腹部大動脈でも2センチ前後あります。胸やお腹の大動脈瘤が大きくなると、破裂の危険性が増大します。風船のように均一に大きくなった場合は、腹部大動脈瘤で直径が5センチを越えれば、多くの施設で手術を勧めています。かたちが不均一の動脈瘤はもっと小さな大きさでも破裂をする危険が大きいのです。
上肢や下肢の動脈では、破裂の頻度は減少し、動脈瘤が血の固まりで閉塞することと、動脈瘤の壁に着いた血の固まりが、末梢の動脈に移動し、そこで動脈閉塞を引き起こす頻度が増加します。足の指の動脈が中枢の動脈瘤の血栓による微小な固まりの移動により閉塞する病態を、微小塞栓症候群と呼んでいます。あしの動脈ではあしの付け根の動脈(浅大腿動脈)と膝の裏を走る動脈(膝窩動脈)に動脈瘤ができる頻度が多いです。頻度は少ないですがこれらの動脈瘤が破裂することもありますし、破裂して初めて動脈瘤と診断されることもあります。
また、お腹の臓器を栄養する動脈(腹腔動脈、脾動脈、上腸間膜動脈、腎動脈)などにも動脈瘤は生じますし、骨盤を栄養する内腸骨動脈や、脳に血液をおくる頸動脈にも動脈瘤は生じます。
動脈瘤の原因は、動脈硬化症によるものがもっとも多く、感染症や、慢性外傷などでも生じます。手術は、動脈瘤を摘出するか、または、動脈瘤を残して動脈瘤に流入・流出する血管をすべて縛ります。破裂の危険、瘤による末梢への微小血栓の予防が目的です。瘤ができる動脈は縛ると、その末梢に重篤な血流障害を引き起こす動脈がほとんどですので、人工血管や自分の静脈を用いて血行再建を行います。また、最近では後述する血管内治療にて、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤などを含めた動脈瘤が治療可能となりました。治療できる動脈瘤の位 置や、かたち、分枝との関係などで血管内治療に適さない場合もありますが、これからますます期待できる治療法のひとつです。 |